構造改革と日本経済の展望 経済アナリスト森永卓郎氏講演より③
かって日本は、従業員を雇用したら一方的に解雇したり、勝手に賃金を下げてはいけないというルールでやってきました。ところが、デフレに入る中で、日本中でリストラが蔓延し、賃下げの方向に動いてきました。小泉構造改革のこの5年間の中での一番大きな変化は、正社員がものすごい勢いで減って、非正社員が増えたことです。
この10年間で正社員が440万人減りました。一方、非正社員は660万人増えました。労働者を正社員と非正社員とに分けて集計した結果、小泉内閣発足前は非正社員は28%でした。それが4年後の2003年は35%と、たった4年間に7ポイントも非正社員の比率が上がったのです。
しかし恐ろしいのは、非正社員の月給が10万円未満の人は4割。10万円~20万円が4割。つまり、その人たちは月収20万未満で生活しているということです。
私なりに計算してみたところ、平均年収が120万円くらいです。
また、OECDが行う国際貧因調査データーによると世界での不平等な国一位がアメリカで、日本が2番目です。30年前の日本は貧率が一番低くい、世界で最も平等な国だったんです。
また、貯金が一銭もない世帯数が1972年には3.2%だったのが、昨年は23.8%で実に4世帯に1世帯が貯蓄ゼロなのです。さらに、収入に左右される婚姻率を見ますと年収1000万円以上ならば結婚率は72.5%、200万円では22.6%、100万円台では15.3%しか結婚していません。すなわち「結婚できない」人が増えて大きな社会問題となっております。
さて、デフレはまもなく終わるでしょう。これからの日本の中小企業が手本にすべきはイタリアです。日欧米の主要国は、みんな中国に食われて産業の空洞化が起こっているのにイタリアだけが製造業の雇用を増やしています。なぜかといいますと、イタリアはそもそも中国と競合しない商品を作るからです。例えばアレッシ―製の最大ヒット商品は笛吹きケトルです。お湯が沸くと和音が鳴ります。1個2万5000円です。中国製品は安いもので500円です。実に50倍の差があります。それは、音によって豊かになる感性を付けた商品だから売れるのです。値引きなしの現金商売です。絶対に儲かります。なぜなら価格で売っているのではなく、感性で売っているからです。イタリアの中小企業の元気がいいのは、明るく暮らすというライフスタイルと、権限委託するビジネススタイルの融合だと思っています。日本もイタリア型になっていくことを景気回復後に目指すべきかと思います。
(おわり)