高まる地政学的リスク
日銀が先ごろ発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業・製造業の現状の業況判断指数はプラス12(前2016年12月短観はプラス10)と2四半期連続で改善し、少なくとも大企業・製造業がけん引する日本経済は穏やかな回復基調にある。実際に相次いで財務省が発表した貿易統計速報(通関ベース)でも、2016年度の貿易収支は4兆円超の黒字を記録、年度末に東日本大震災が起きた10年度以来、6年ぶりの黒字に至った。
ただ、前記の要因は輸出や生産部門ほか、ひと頃の勢いは欠くもののインバウンド需要などに負うところが大きく、昨秋の米大統領選以降の円安・株高基調による企業収益の押し上げ効果と見るべきだ。本質的な内需構成要素である個人消費は依然として弱く、その後4月中旬時点では円相場が1㌦=108円台後半、日経平均株価も年初来の安値を更新するなど、日本経済における構造的な不安材料は拭い切れない。
とは言え、現下の日本は緊迫感が高まっている周辺諸国との関係や、原油をはじめ懸念されるエネルギー価格の上昇などと同様、その地政学的リスクレベルは日増しに高まっている。周辺諸国との関係においては現安倍政権の外交や防衛対応手腕に委ねざるを得ないが、経済・産業構造面では、トランプ発言や欧州における政治リスクなど実体経済を反映したものではない円高や株の安値水準に振り回されない新・成長戦略が待たれる。
これまで円安基調に支えられてきた日本経済、特に内需依存度が高い中小企業にとって、このところの円高は輸入原材料のコスト安など“恩恵”もある反面、取引先大企業の収益悪化に伴う“影響”もある。予想される“オリンピック特需”を控え大型経済対策の本格的な執行もあって、(対外的なリスク要因が顕在化しなければ)17年度も当面穏やかな景気回復が見込まれるが、やはり外需依存体質からの脱却が急務だ。
この点、政府による働き方改革や教育改革を通じた労働人口と所得増を目指す方針に異論を挟むものではないが、未だ建設業やサービス業などの一部の人手不足や根本的な消費停滞の解消には至っていない。
ねじ・部品産業にとって密接な需要家である大手自動車メーカーは、17年度上期分の鋼材支給価格(集中購買価格)を前年下期比14000円程度引き上げた一方で、取引先部品メーカーに同じ17年度上半期におけるコストダウン要請を16年度下期同等水準とした。取引先業種や各社の業態で異なるものの、大半は1%未満とされる。
認めるべきは認め、要求するべきは要求する。政府にこうしたメリハリを効かせた対応で内需拡大への道筋を模索して貰いたい。 時評より