「臭いものに蓋」でいいか
「人の噂も75日」という言葉に象徴されるように、日本人は「熱しやすく冷めやすい」のが特性だとか。だが、本当にそれでいいのだろうか。政治の世界では法案を巡る対立や批判をはじめ、スキャンダルや失言など、マスコミの注目を浴びる事態が後を絶たない。
だが、それらの話題が集中的に報道された後、しばらくすると「いつまでもそんなことに時間を取られていいのか」といった声や「もっと大切なことがある」といった批判が起き始める。事実、時間の経過や新たな問題の発生などにより、疑惑や疑念が一向に解消されていないにもかかわらず、フェードアウトしていくことが少なくない。一見もっともな意見にも思えるが、別の角度から見れば「臭いものに蓋」をしたままでいいのか、という疑問がわいてくる。
「一強」と言われた安倍政権だったが、自身の関与が疑われる森友、加計問題をはじめ、閣僚や党所属議員の失言、スキャンダルなどで、あっという間に支持率が急落した。都議選での歴史的惨敗もあり、今や「ポスト安倍」が注目を浴びる状態にまで陥っている。だが、一連の問題の背景にあったとも言われる「おごり」は解消されたのか。森友、加計問題や防衛相の日報隠ぺい問題に対する疑惑は解消されたのか。答はいずれも「ノー」だろう。
安倍政権は内閣改造で、「お友達」や「えこひいき」との批判をかわすため、これまで安部首相と距離を置いてきた野田聖子氏(総務相)や河野太郎氏(外相)を入閣させた。これには一定の効果があったようで、内閣支持率も多少は持ち直している。同時に安倍首相自身、改造後は「反省」や「国民へのおわび」「丁寧な説明」などの発言を繰り返すことで、謙虚な姿勢をアピールしてみせた。だが、それが具体的にどんな行動となって現れているか。
自衛隊の南スーダンPKOに関する日報問題についての閉会中審査に、当事者である稲田朋美前防衛相の姿はなかった。疑惑の解明を積極的に進める意思があるなら、総裁として稲田氏の出席を指示することは可能だったはずだ。
森友問題でも、問題の「本丸」である国有地の大幅値引き問題でまともな説明もせず、「資料は破棄した」と言い続けた財務省の理財務局長をすんなり国税庁長官に昇格させている。記者会見で「新たな指摘があれば真摯に対応する」と言っていた加計学園獣医学部認可問題では、新たな指摘が出ているにもかかわらず、何の「対応」も示していない。
これでは、各種の世論調査で、相変わらず不支持が指示を上回り、その理由のトップに「安倍首相が信頼できない」が来ているのも当然だろう。北朝鮮の脅威など、国家の重要問題は山積している。だからといって、数々の疑惑に“蓋”をしてはいいはずはない。
今、国民にできることはただ一つ、「冷めない」ことだ。
伊藤惇夫「時論」より