アベノミクスと今後の経済政策
2012年12月の総選挙にて自民党が政権与党の座に返り咲いて以来、わが国の経済は緩やかな回復を維持している。当時の状況を振り返ると、米国の景気は緩やかに回復していた。加えて、中国政府が財政出動を進めてインフラ投資などを進め、需要が回復してきたことも見逃せない。米・中の景気回復が国内経済を支えたことは重要なポイントだ。2013年4月以降に日本銀行が進めた“異次元の金融緩和”は、米国主導で進んできたドル高・円安の流れをより強くしたといえる。事実、2011年10月末にドル/円は史上最高値の1ドル=75円32銭を付け、それ以降は円が徐々に減価した。つまり、日銀の異次元緩和は円安トレンドを増幅し、2015年半ばまで一時的なドル高・円安トレンドを支えた。こうして企業業績がかさ上げされ、株価も上昇した。その一方、構造改革は十分に進まなかった。そのため、景気の回復にもかかわらず、実質ベースで賃金は増加していない。直近のデータを見ても、8月の実質賃金は前年同月比で0.1%の増加だった。これは8カ月ぶりの増加だ。その意味で、アベノミクスが国内経済を本格的に回復させたとは言いづらい。
アベノミクスには、異次元の金融緩和以外に目立った成果を上げた政策はあまり見当たらない。ただ年間80兆円に達するペースで国債を買い入れ、企業や家計の借り入れ意欲を刺激しようとしてきた日銀の政策も限界に達している。さらなる金融緩和は、金融機関の収益性悪化など経済にマイナスの影響を与えかねない。財政政策の側面では、高齢化の進展によって膨張する社会保障費の削減が必要だ。追加的な財政出動の余地は限られている。金融・財政政策の手詰まり感が高まるなか、政府は構造改革を進め、民間企業の“新しい取り組み”を支える必要がある。それが、当初のアベノミクスが目指した”成長戦略“の本義であったはずだ。
第4次安倍内閣は、生産性の向上と人づくりを重視している。いずれも、相応の”需要“がなければ実現は難しい。そのために政府は規制緩和などを進めて、従来にはなかった取り組みを促進していくしかないだろう。民間企業が”イノベーション“を目指し、これまでにない新しいモノやサービスを創出する環境を作り出すことが最も重要な課題だ。
ー視点より真壁昭夫ー