五 輪 精 神
もしかするとこの先もう見られないかも知れない歴史的瞬間に立ち会えた幸運を、しかもその舞台を整えてくれたのが次代を担う若者たちだったことを、素直に喜びたい。
18日の日曜日の朝、自宅に配達された定期購読の一紙を見ただけでは分からなかっただろう。けれど、朝日・毎日・読売という三大全国紙を横に並べて見たとき、3人の若者たちが成し遂げた偉業の重大さを感じる。3紙とも、「羽生連覇」「宇野銀」「藤井V 六段昇格」とほとんど同じ見出しを立てたうえで、コラム欄を含む第1面の全紙幅を、彼らが成し遂げた快挙を報じる記事に充てたのだ。こんな嬉しい偶然に、将来また出合えそうなイメージを、残念ながら描きにくい。
昨年右足首を負傷した羽生結弦が、以降、4回転ループのジャンプを試み始めて成功したのは、実は前日の練習時だったそうだ。奇跡的な回復だったが、半面、コーチや本人は「ケガをしてよかったかも知れない」と口にする。ケガしていなかったら、「勝って当然」というプレッシャーや気負いが、マイナスに影響していたかも知れないからと。
そんな羽生を近くで見続けてきた宇野昌磨の、若者らしい本音にも拍手を送りたい。フリー種目の最終滑走者として羽生を含む全選手の演技を冷静に見ていた彼は、「もしかすると1位になれるかも知れない」と思っていたそうだ。それなのに、試合では最初の4回転ループでいきなり転倒。「(自分は一体何やっているんだと)思わず笑えてきた」という開き直りが緊張を解し、その後の演技を楽にさせたらしい。
同日、将棋「朝日杯オープン」で藤井聡太五段が準決勝で羽生善治竜王、決勝で広瀬章人八段を破って史上最年少で優勝、六段への昇格を果たした快挙も素晴らしい。
しかし本欄ではやはり、18日のスピードスケート女子500mで金メダルを手にした小平奈緒の健闘と、何よりも彼女が、満場の声援に応えられず銀メダルに終わった韓国・李相花(イ・サンファ)に対して示したスポーツマン精神に、敬意と感謝の気持ちを表したい。
五輪新の1位で先に滑り終えた小平は、日本人ファンなど場内の歓声に小さく手を振り応えていたが、やがて人差し指を唇に当てる仕草を2度3度した。直後に滑るライバル・李のスタート準備の邪魔にならないよう、観客に静粛を求めたのだ。
五輪の意味は、まさにその精神にこそある。開会式で、数メートルの近くに居ながら話すどころか目すら合わせることすら避けた各国首脳たちに、大々「喝!」をいれたい。
(信用情報レーダーより)