脱「干渉効果」
1秒、2秒。そのたった2秒間に、あなたなら、何ができますか?
すでに1児のママの彼女を「ちゃん付け」するのが失礼と思いつつそう呼ぶと、卓球選手の福原愛ちゃんは、母親から「気持ちは2秒で切り替えられる」と小さい頃から教え込まれたそうだ。だから、直前のプレーやセット、ゲームで嫌な負け方をしても、余計な感情を2秒間で断ち切り、次のプレーに集中できたとインタビューで答えている。強さの裏側には、気持ちの素早い切り替えがあるということだ。
かつてドイツ・サッカーリーグ「ブンデスリーガ」でも活躍した柏レイソルの細貝萌(はじめ)選手は、試合途中でミスをしてしまった際は、「パーキング」と呼ばれる方法で気持ちを素早く切り替えるそうだ。松本大学の齊藤茂准教授(スポーツ心理学)から教わったメンタルトレーニング実践に役立てているもので、「パーキング」とは文字通り「駐車する」こと。自分が犯したミスを、頭の中に作った仮想の「駐車場」に一旦置き留め、今は目の前のプレーに集中する、という考え方だ。
人間は誰しも、失敗やうっかりミスを避けられない。問題は、ミスを起こし落ち込んでしまった自分の気持ちを、いかに早く立て直すかだ。
なぜなら、人間の心理には「干渉効果」と呼ばれる現象があるからだ。脳は、嫌な記憶が一つインプットされると、それがポジティブな記憶に“上書き”されてしまう。すると、うまく行っていたことを忘れ、ミスや失敗を引き摺ったネガティブな思いが、大切な「ワーキング・メモリー(段取り脳)」の能率を下げてしまうという。
だから大事なのは、自身の失敗に捉われて傷口を広げる「負の連鎖」を断ち切ること。その方法が愛ちゃんの場合は「2秒間」、貝細選手は「パーキング」なのだ。
実用に至らなかったものを含めると生涯で約3000の発明をしたとされるエジソンは言う。「私は失敗を重ねたのではない。うまく行かない方法を1万通り発見したのだ」 「経営の神様」によるこんな言葉もある。「商売は時世・時節によって損もあれば得もあると考えるところに根本の間違いがある。商売というのは不景気でもよし、好景気であればなおよしと考えねばならない。不景気は、かえって進展の基礎を固めるチャンスであることは、過去の幾多の成功者がこれを実証している」(松下幸之助翁)
落ち込んでいるヒマがあるなら、やることをやれ、と多くの先人から叱られている。
(レーダーより)