安倍政権は肝に銘じよ
大島衆院議長が、安倍政権に注文を付ける異例の所感を公表した。財務省の決裁文章改ざんなど多くの政権不祥事が問題となった今年の通常国会を振り返り、反省と改善を促した。
衆院議長がこうした所感を出すのは異例だが、その内容は立法府の長として当然の指摘である。行政府の長である安倍首相は真摯に受け止め、肝に銘じるべきだ。
大島議長は森友問題を巡る決裁文章改ざんや、自衛隊の日報隠蔽、厚生労働省の労働時間調査での不適切データ問題などを挙げ「民主主義の根幹を揺るがす問題。立法府の判断を誤らせる恐れがある」と強調した。
行政府にとって都合の悪い内容が書き換えられたり、隠されたりしているのでは、国会でまともな議論ができず、判断を誤る恐れがあるのは当然だ。
そうした行為は、国権の最高機関である国会を行政府が軽んじているとも言える。遅きに失した感はあるが、衆院議長が所感を公表して怒りの声を上げたのは、当たり前の対応である。
大島議長はこのほか、森友、加計学園問題や前財務次官のセクハラ問題などを念頭に「国民に大いなる不信感を引き起こした。個々の関係者の一過性の問題として済ませず、深刻に受け止めていただきたい」と訴えた。
森友、加計問題について、安倍政権は既に「幕引き状態」だが、安倍首相や昭恵夫人に近い両学園が優遇され、行政の公正・公平がゆがめられたのではないか、との疑念は一向に払拭されていない。
国有地が約8億円も値引きされた「真相」が霧に包まれたままの森友問題と、加計学園が安倍首相との面会を捏造して愛媛県と今治市に報告していたなど、つじつま合わせのような不自然な“事実“が後から次々に出てくる加計問題は、いずれも終結の見通しが立たない。
安倍首相は「丁寧な説明」という言葉を繰り返したが、通常国会の答弁で納得できた国民はどれほどいただろうか。
大島議長は立法府の責任にも触れ「国民の負託に応える行政監視活動をしてきたか、検証の余地がある」と述べ「国会としての正当かつ強力な調査権の一層の活用を心掛けるべきだ」と提案した。
衆院選の小選挙区制が定着し、公認権を握る政党トップの力が強まる中、政権与党の場合は首相の権限が強大となった。
その結果が、現在の「安倍1強」体制であり、それに伴って内閣と国会の力関係にも変化が生じている。
与党が「数の力」を頼んで真剣な議論をおろそかにし、強行採決を繰り返すようになれば、国会論戦の意義が薄れてしまう。それは、国会議員が自らの役割を放棄するようなものと言える。戦後民主主義が目指してきた国会の姿は、そういうものではないはずだ。