丸セパ 即納 共栄製作所株式会社のホーム > 共栄ニュース > 共栄ニュース 2018年10月号 -第337号-

幻 想

お笑いタレントで芥川賞作家の又吉直樹氏がテレビで紹介したことも手伝ったのか、宮城教育大学元副学長・菅野仁氏が2008年に書いた「友だち幻想」が、昨年から急に売れ始め、4月現在で25刷、累計18万6200部のベストセラーになっている。

 「♪いちねんせいになったら/いちねんせいになったら/ともだちひゃくにんできるかな・・・」という童謡「一年生になったら」の、歌いだしぐらいなら聴き覚えがある方も多かろう。幼稚園の卒園式でよく歌われるこの歌は、「友だちをたくさん作ることはいいことだ」という考えを、当然のように前提にしている。  

しかし、現代社会においてそれは本当に正しいことなのか、と問い直すのが本書だ。  

菅野氏が本書を書こうと思ったのは、当時人付き合いが苦手だった小学生の長女が、クラスのみんなと仲良く遊ぶようにと、学校から何度も注意されて帰って来たからだ。  

もちろん友だちは大事。多いに越したことがないのかも知れない。しかし、だからといって「友だちづくり」は、無理にも求められるべきものなのか—-。

 本音を言えば、友だちとの関係をどこか重苦しく感じるという、矛盾した意識を持ってしまうことは私たち大人にもある。原因は、私たちが、知らず知らずのうちにさまざまな人間関係の幻想にとらわれ、見当外れな方向に気を使いすぎているからだ。  

そこで、これまで当たり前と思っていた「人と人とのつながり」の常識を、根本から問い直して見る必要があるのではないか—-菅野氏の問い掛けはそこから始まる。

 なぜなら、日本の「社会」が大きく変質した。農耕時代の日本人は、地域住民が協力し合って暮らす「村社会」の中で、互いを思いやる作法を大事にしてきた。しかし、多様で異質な生活形態や価値観を持った人々が隣り合って暮らす現代社会では、同質性を前提とする作法は、もはやフイットしないのだと菅野氏は指摘する。  

「現代社会では、気の合わない人たちも『並存』『共在』できることが大切。それには、気に入らない相手とも傷つけ合わない形で時間と空間を共有する作法を身に付けるしかない。自分をすべて受け入れてくれる友だちなんて幻想なんだというどこか醒めた意識、無理に関わらずに『やりすごす』という発想が必要なのだ」(抜粋、要約)

 職場や社会に新人を迎えて間もなく半年。過度の期待=「幻想」を勝手に抱いて失望するのでなく、時代に相応しい「距離感」を学ぶべきかも知れない。

(レーダーより)