「不思議な国」日本
1980年代、フランスの貿易商ポール・ボネ氏が長年にわたって雑誌に連載した「不思議の国ニッポン」はシリーズ化され文庫本となって人気を博した。「日本においては子弟の教育は学校に、思考はテレビ・ラジオ・新聞にゆだねられている。自分で考え、自分の意思で行動するという考え方を持つ日本人はどうやらあまり多くないようだ」など、日本人の特質をあらゆる面から喝破し、時には驚きや称讃をもって日本を「不思議の国」と称した。
それから30年以上経った今、また新型コロナウイルスの対応について世界から「不思議な国」という声が上がっている。米国の外交誌は「日本の感染対策はことごとく見当違いに見えるが、結果的には世界で最も死亡率を低く抑えた国の一つであり、対応は奇妙にも上手くいっているようだ」と伝えている。医療従事者の懸命な働きがあったのは事実だが、日本人の体質なのか、相手を気遣い清潔を心がける文化によるものか、手洗いできる環境が充実しているからか、欧米とウイルスの型が違うのか、その原因を見極めるのはいまのところ難しい。他国に比べウイルス検査は多いわけでもなく、外出規制も緩いのに・・まさにミステリー、「不思議な国」といえる。
そして、もう一つコロナ禍で浮かび上がっているのが20年前からIT時代といわれてきたにもかかわらず、紙の文化が根強く残っていることである。連日、新型コロナウイルスのニュースが伝えられる中で、感染者の情報はFAXでやり取りされ、10万円の特別定額給付金では、オンラインで申請されたデーターを紙に印字し住民基本台帳と照合していると報じられており、いずれも「昭和の時代」に戻ったような感覚である。
また、紙の文化と密接に結びついているのが「印鑑」である。人との接触を避けるため在宅勤務をしていながら、ハンコを押すために出社しなければならない人がいるという。日本のハンコ文化は律令制度がまとまった西暦700年頃に始まるとされるが、ハンコが必要なのは紙の文化から抜け出せていないことにある。世界的にITが進歩したにもかかわらず「日本の事務処理は80年代で止まっている」という人もいる。経済や生活文化が進んだ国として認められているのに、「不思議な国」といわれても反論できない。
緊急事態宣言は解除されたが、コロナ禍の第2波、第3波が心配されている。コロナ対策においては“不思議”だけで済ませてはなるまい。
レーダーより