IT競争から遅れた日本、ねじ技術は?
日本の技術先進国としての地位が脅かされている。先端技術だけではなく、古くから日本が積み上げてきたものづくりの技術をはじめ既存技術の発展にも、もはやデジタル技術なくして今後の成長は図れない時代になっている。
それにもかかわらず、日本のIT競争力は先進国とはいえない水準に留まっている。事実、世界経済フォーラムなどがまとめたIT競争力ランキングで日本は10位圏外と低い。
日本経済新聞(7月18日付)では、約20年前に「5年以内に世界最先端のIT国家となる」と宣言しながら、旗振り役の行政自身がIT技術に遅れていることを指摘して、「反省なしに先行国に追いつけない」と批判している。
IT競争力の遅れは日本社会が新型コロナと対峙して鮮明になった。教育現場では、重たい教科書の替わりに教材をタブレット端末にいち早く移行していれば、休校する必要すらなく、生徒や児童は自宅でオンライン教育を受けることも比較的容易にできたはずだ。
主にIT技術により新しい発想で社会を一変させる可能性を秘めているユニコーン企業の数からしても、中国やアメリカは勿論、欧州やアジア各国と比較しても日本はあまりにも少ないのが現状だ。ITベンチャーが育たないのは日本の市場が規制だらけで、今までなかったビジネスを受け入れる環境がないからと指摘されている。米ユニコーン企業の自動車配車サービスが日本では「白タク行為」となり法的に認められていないのが、その一例だ。
こうした中、(一社)日本ねじ研究協会が、将来、業界をリードする技術者を育成するための「ねじ大学構想」の検討を20年度の事業計画に掲げている。この構想は、有望な対象者を公募して、ねじ研の定めた大学や教育機関の専門カリキュラムを経て優秀な技術者を育成する仕組みを検討するものだ。
ねじ技術の専門研究者が少なくなっている現状の危機感から発案された構想という。日本のねじ技術は世界最高水準と言われる一方で、先行しているドイツのように権威となる教育・研究機関がないことは嘆かわしい事実だった。ねじ研には、標準化や技術研究を通して日本のねじ産業が、世界トップレベルで走り続けられる基礎の役割をしっかり担ってもらいたい。
日本の製造業が陥っている「高品質で低価格」だけの視野から離れ、前述の通りデジタル技術との融合も含めた新しい価値を見出せる「ねじの技術」、さらには「ねじのサービス」の登場を期待してやまないが、そのためには基礎となる「学」と、その価値を創り出す「産」の企業、そして市場取引のルールを作る「官」と、3つの歯車が噛み合うことが必要だろう。
-時評より-