日本は何を守らなければいけないのか
コロナ禍の低迷から、製造業が大手を中心に回復を見せている中で、半導体不足が自動車をはじめ家電、精密機器などへ部品を供給するメーカーの生産にまで影響を及ぼす懸念が広がっている。
電子制御をともなう精密機器には絶対に必要となる部品だけに、供給不足となると現在のモノづくり産業に及ぼす影響の広がりは計り知れない。要因は多角的でひとつに断定できない。
コロナ禍で生産停止していた自動車メーカーの急激な立ち直りによる需要過多、テレワークや巣ごもり需要によるノートパソコンやゲーム機の生産増、米国の中国半導体企業に対する貿易制裁も影響していると指摘されている。
自動車向け走行制御マイコンで世界大手の国内メーカーの工場火災も供給不足をさらに深刻化させる懸念がある。ある調査によると同社の販売先は約460社で、このうち一次販売先が約60社、二次販売先は約400社。二次販売先には大手自動車・電機メーカーが含まれている。
自動車の電子制御の最たる例は自動運転技術だ。最近、世界初となる「レベル3」の自動運転技術を搭載した乗用車を発売したのは国内メーカーだ。運転の主体が初めてドライバーではなくシステム(車)となる「レベル3」では、自動運転時にドライバーがステアリングを離して、前方から目を逸らすことが可能となる。半導体の問題が、国内のこうした明るい話題に水を差してほしくないところだ。
コロナ危機直後のマスク不足が記憶に新しいが、海外依存している製品の供給危機の度に指摘されるのが、こうした国内生産の重要性だ。製造業を今後も日本の生命線と捉えているのであれば、ハードとソフトのつなぎ目となる半導体を、“戦略的部品”と位置付けて、各国に遅れをとることなく、海外依存を解消する環境を早急に整えるべきだ。半導体製造装置では海外に引けを取らない日本のアドバンテージを十分に活かす時だろう。
国内自動車メーカーの一社は電気自動車向けのバッテリーについて、海外に依存しているレアメタル・コバルトを使わない低価格品の実用化を目指している。EVシフトによって、海外競合メーカーとさらに過熱化すると予想されるレアメタルの争奪戦から抜け出すための光が差す技術といえる。
資源に乏しく製品を作ることで価値を見出してきた日本だが、作るための環境や新たな資源そのものも技術を駆使して整備しなければならない正念場となる。
日本は何を守らなければいけないのか―。この一点に注目することで自ずとヒントが見えてくるのではないか。
― 時評より ―