G7の1人当たりGDPで最下位の日本が示す意味
日本を代表する大企業の幹部が、経済の話について竹下元首相に説明した時の話である。
話を聞いていた竹下氏は、こう切り出したという。
「あなたは私のところに説明に訪れるぐらいだから、社長候補のひとりなのだろう。だが、あなたは数字に弱い。偉くなるにはもっと数字に強くならなければならない」
世界で最強の情報機関は米国CIA(中央情報局)と言われる。そこでは「The World Factbook」というサイトがあり、さまざまな数字を紹介している。
その中に世界各国・地域(例えば香港、マカオなど)の1人当たりGDP(国内総生産)のランキングの紹介がある。GDPは当該国全体の数字だが、その国の人々がどれだけの豊かさを享受しているかとなると、1人当たりGDPがより的確である。
G7(先進7カ国)のランキングは次の通りだ。
米国15位、ドイツ25位、カナダ32位、英国35位、フランス37位、イタリア42位、日本44位。一方、アジア諸国では、シンガポール5位、韓国41位である。1人当たりGDPで日本が韓国よりも下位に位置するというのは、多くの日本国民にとってショックだろうが、これが現実である。
日本は経済大国というイメージがあるが、1人当たりGDPを見ると、とてもそうは言えないのである。
国連統計でも日本が世界の中で置かれた状況を把握することができる。CIAデータとの違いは国連加盟国の中での日本の順位であり、便宜上、比較的変動が多かった年を抜粋して紹介したい。
1990年14位、91年9位、94年6位、98年12位、2002年14位、04年20位、06年29位、09年26位、10年21位、12年20位、13年31位、17年33位――である。
これらの数字と当時の首相が誰だったのか振り返ると興味深い。日本は2000年の森首相までは徐々に順位を落としてきているものの、まだ10位に位置していた。
ところが、小泉政権以降、下落の勢いが増し、05年には23位となった。09年に誕生した民主党政権の時代は酷かった、といわれるが、その数字は決して悪くはない。それよりも、下落が急ピッチで進むのは第2次安倍政権からである。
日本の相対的地位が低下しているのは、1人当たりGDPがほぼ同水準で推移しているのに対し、世界の多くの国では成長していることに起因する。1人当たりGDPが落ちているわけではないため、日本国民の不満はそう高くない。だが、他国が成長し続けている間に日本の国際的地位はどんどん悪化しているのである。
国民1人当たりGDPがG7で最下位、アジアでも韓国よりも下位という現状は、今の日本の国のありさまがどこか狂っていることを示している。
<孫埼享より>