礼節を重んじる日本人
4月11日、米男子ゴルフのマスターズ・トーナメントで松山英樹選手が初優勝。日本人男子として初のメジャー制覇は、私たちに大きな感動を与えてくれた。一方キャディーの早藤将太さんが取った行動も注目を集めた。松山選手が18番ホールでウィニングパットを決めた後、早藤さんはピンを戻すと、帽子を取りコースに一礼をした。格式と威厳を重んじるマスターズのコースに敬意を示した姿に、多くの称讃の声が寄せられたのだ。
日本では野球場、サッカー場などでもグランドに向かって一礼する所作はよく見かけ、決して珍しいことではない。早藤さんも「ありがとうという気持ちを表しただけ」と言っているが、日本人の感謝や礼節を大切にする気持ちがマスターズという大舞台で世界中に伝わり、感動を与えたのだろう。
日本人の礼節を重んじる行為は、今までも様々な形でみられた。その徳の高い生き方から近江聖人と讃えられた陽明学者、中江藤樹(とうじゅ)には「致良知」(ちりょうち)という教えがある。人は誰でも良知という美しい心を持って生まれてくる。尊敬し合い、認め合い、親しみ合う心である。しかし次第にいろいろな我欲が生まれ、それを曇らせていく。そうした我欲に打ち克って良知を磨いて行く努力を重ねることが大切と説いたものだ。江戸時代初期、現在の滋賀県高島市に生まれた中江藤樹は、同市安雲川町の藤樹神社に祀られている。そして、この藤樹神社の建立に尽力したのが事業家の渋沢栄一だった。先月、それを示す史料が神社で見つかったと新聞に報じられた。史料には、人としての徳を磨くことの大切さを説いた中江藤樹の教えに共感した渋沢が、建立のための資金調達に貢献したことが詳細に記されているという。
日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一は、今年のNHK大河ドラマ『晴天を衝け』の主人公で、2024年度には新一万札の顔になる。彼は著書『論語と算盤』で、「富を成す根源は何かといえば仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富を完全に永遠にすることができぬ」と、論語(道徳)と算盤(経営)の一致を説いている。そして「実業家が我勝ちに私利私欲に汲々として世間がどうなろうと、自分さえ利益すれば構わぬといっておれば社会はますます不健全になる」と警鐘を鳴らしている。
スポーツも経営も激しい他者との戦いがある。そんな中でも、先人から受け継いだ礼節、人の道を失わない日本人の美徳を、これからも大切に守っていきたい。
レーダーより