サンクコストの呪縛
すでに費やした労力や時間、支払ってしまったお金など取り戻すことができない費用をサンクコスト(理没費用)という。将来の意思決定においては、サンクコストを考慮せず、今後の損益だけを考えて判断することが合理的である。
高級レストランで一皿3千円のスープを注文したが、まったく口に合わなかったときどうするか。「高級料理なのだから、自分の舌がどうかしているのかもしれない」と我慢して飲み続けるのは得策なのか。スープを飲み干しても飲まずに残しても、支払う代金は変わらない。そうであるなら、無理をして飲まなければ、これ以上不快感を覚えなくて済む。だから『飲まない』が合理的判断である。しかし、日本人の美徳なのか、そこに「もったいない」という感情が働く。「せっかく料理人が作ってくれたのだから、残すのはもったいない」と。だが、それも条件が異なればまた変わる。そのスープがサービスだったらどうか。まったく口に合わなくても飲み続けるのだろうか。そう考えると「もったいない」に囚われているのではなく、カネを支払うのだから、その対価を得なければというサンクコストに縛られているのだ。スマホゲームのいわゆるガチャに毎月継続して数万円、数十万円と使う人は、レベルを上げるため大金を注ぎ込んだだけに余計にやめられない・・・というのも同じ。
株式投資で勝つための一番の技術は素早い損切りといわれるが、投資した株が予想以上に値下がりしても損切りできず、上がる可能性に賭けて持ち続ける人も多い。これでは投資資金が硬直化するだけである。これもサンクコストの呪縛で、予め株の損切ラインを決めておくこと(逆指値の設定)が大切だ。
ビジネスも同じ。新規事業に投資したものの思うような成果を得られず、人件費を考えれば赤字なのに撤退できないというのはよくある話。とりわけ事業においては、過去の投資に価値があるというのは、ほとんど錯覚であり、過去にこだわればこだわるほど未来を切り開くことが難しくなる。
サンクコストの呪縛から逃れるには過去を振り返らず、現実・未来を見据えた意思決定をすればよいのだが、頭で理解できていても実際に気にしないでいるというのはなかなか難しい。現実的には物事をはじめる際に撤退ラインを設定し、それを忠実に守るのが得策だろう。
レーダーより