新製品開発の最終目標は‟普及’’
ねじ・ばね及び関連する材料・工具・設備機器等について報道する本紙(金属産業新聞)。ねじ・ばねは遥か昔から工業製品として‟完成されている”と云われながらも、そこに何かしらの‟一工夫”をして改良型新製品を開発することが、企業だけでなく個人や個人経営規模な企業でも行われ、本紙でも度々紹介している。
最近でも或る新製品を企業がいよいよ量産化を進める段階に入ったというので取材したが、その社長からは次のような旨で説明があった。
-量産にあたり加工法を試行錯誤して試作品を少ロット生産するよりは効率的で大量かつ安価に加工する事ができるようになったが、それでも製造コストは高く販売単価に跳ね返ってしまう。さらにコストを下げる試行錯誤を続けようとも思ったが、知財(知的財産)を申請・取得(登録)済みだとしても期限があり、少しでも早くこのような新製品があるとユーザー層に知ってもらう事、量産してくれるメーカーや流通させてくれる問屋・商社との協力体制構築、そして採用実績を作ろうと思い、とりあえずはこの仕様で量産化して売り出すことにした―。
一見‟見切り発車”に思えてしまうかもしれないが、これは正しい判断だと時評子は思っている。特許権は発明と呼ばれる創作性の高い新しい物品・使用方法・製造方法であり存続期間は出願の日から20年間保護される*出願が認められる事が前提。実用新案権は技術の新しいアイデアを取り入れて、物品の実用性を高めた考案に対して与えられ、存続期間は出願の日から10年間。意匠権は物品の新しい形状・模様等のデザインに対して与えられ、存続期間は出願の日から25年間。商標権は自社の商品あるいは役務を他社のと区別し、その信用を保持する為に使用するマークに与えられ、存続期間は登録の日から10年間だが、10年毎に更新する事が可能となっている。
当面は権利が保護されるから急ぐ必要はないかもしれない。但し重要な点は普及が1年間遅れるという事は「最初の売り出す前の1年分の収益」が失われるのではなく、「売れ出した場合の最後の1年間分(特許権の場合20年目)の収益」が失われるという事だ。今回の場合コストを下げる改良は後からでも出来るはずで、期間を過ぎたら他社が真似しても法的には問題とはならず一気にシェアを奪われる可能性もあり、それまでの期間に確固としたシェアを築かなければならない。また知財侵害に理解のない企業もあると想定したら早いに越した事はない。
新製品開発において知財の権利取得はあくまでも通過点であり、最終目標は‟普及”させて確固としたシェアを確立する事だ。
<時評より>