三つの坂
「日本の坂道は上り坂と下り坂の数、どちらが多い?」と聞かれると、一瞬考えてしまう。答えは「どちらも同じ数」。なぜなら坂というのは、その人が進む方向によって、上り坂にもなるし、下り坂にもなるからだ。進む方向によって変わるだけなので、数は同じなのである。
企業経営にも上り坂と下り坂がある。ただし、この坂は企業によって異なり、上り坂と下り坂は同じ数ではなく、変動も激しい。コロナ禍を克服してインバウンドの回復で上り坂に転じる企業もあるが、厳しい経済状況や消費環境、人手不足などから下り坂の企業は増える傾向にある。企業経営で上り坂のときは、すべてが上手く行き、事業拡大も順調に進み、増収増益をたどる。一方、下り坂のときは、何をやっても上手く行かず、打つ手もなく減収減益が続いてしまう。立ち位置を変えても下り坂が上り坂に転じることはない。上り坂のときはオフィス拡充、店舗拡大、人材採用、設備拡張など先行投資をする。しかし一見、調子が良いように見えても先行投資が上手く行かず、坂道を転げ落ちるように下ることもある。上り坂を駆け上がっているときこそ足元を堅固にして体制を整えておくことが大切である。そのためには、上り坂の途中であっても、時には止まって周りを見渡してみる。必要なら少し坂を下ってもいいのかもしれない。成長し続けることが一番と思い込みがちだが、人材の問題、資金面の問題、外的要因など思いもよらないことが起こることもある。そういう場合は、成長することばかりにとらわれず、一度立ち止まって地固めをする時間を持ちたい。
企業経営にはもう一つ、外的要因など想定しえない「まさか」という三つ目の坂もある。松下幸之助の「人生三つの坂とは、上り坂、下り坂、まさかだ」の言葉でよく知られるようになった坂だ。上り坂の途中で、突然トラブルに見舞われ、企業の存続が危うくなることもある。「まさか」には台風や地震などの自然災害をはじめ、経営者の健康、企業内の不祥事、設備のシステム障害など様々なものがある。この先、どのような想定外の事態に見舞われるか分からない。まさかの備えを充分に行うことは、今後ますます必要になってくるだろう。
人生山あり谷あり。たとえ下り坂が続いても松下幸之助の「正しい熱意、素直な情熱あるところ必ず、経営成功の道が開けてくる」という言葉を信じて進みたい。
〈レーダーより〉