無形文化遺産
昨年、日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産へ登録されることが確実になった。日本酒は海外でも人気が高まっており、今後の輸出拡大や地域活性化が期待されている。
「和食」が無形文化遺産に登録されたのは2013年。外国人観光客にも人気となっており、和食を楽しみに旅のプランを立てる方も多いだろう。和食を構成する基本的献立といえば「一汁三菜」。一汁三菜は、汁物、おかず三種で構成される献立のこと。「三菜」と聞くと、焼き物に煮物に和え物にと手の込んだ料理に思えるが、身近なところでは、牛丼チェーン吉野家の「特朝定食」もご飯、味噌汁、鮭の塩焼き、納豆、生玉子で立派な一汁三菜である。栄養の観点からみても、ご飯でエネルギー源の炭水化物を、汁物で水分を、三種のおかずで栄養をバランス良く摂ることができる。また、一人分ずつ盛り付けることで食べ過ぎを防ぐことができ、健康食としても優れている。
一汁三菜の原点は「懐石料理」にある。懐石料理といえば高級料亭や和風旅館での豪華でありながら繊細な日本料理が思い浮かぶが、元々は茶の湯の食事であり、正式の茶事において、「薄茶」「濃茶」を喫する前に提供される簡素な料理のことだ。懐石料理の形が定まったのは千利休の時代。利休は「わび茶」の精神に基づき、華美な茶碗や豪華な茶室を改め、簡素な茶碗や質素な茶室に価値を希求したが、茶会で饗する料理も同じだった。茶の湯の主役は「茶」であり、料理は茶の魅力を堪能するため空腹を癒す程度でいいと位置付けた。そこで利休が目を付けたのは、禅僧の修行料理だった。ある茶会の記録では、飯のほかに出たのは、汁、鮭の焼き物、ゆみそ(柚味噌)、なますの一汁三菜である。因みに「懐石」という言葉は、禅僧が懐に温石を入れて、空腹と寒さを紛らわしたという故事に由来する。
しかし、いつしかこの簡素な料理では飽き足らず、懐石料理も次第に品数が増え、茶ではなく酒を飲みながら楽しむスタイルへと変化した。いま、「懐石」の本来の意味を求めて料亭に出向く者はいないだろうが、一汁三菜は、私たちの食卓に受け継がれた。
この一汁三菜のみならず、和食には様々な謂われや習慣がある。こうした日本人の伝統的な食文化を次世代に継承することが、無形文化遺産登録の本来の意味だ。「伝統的酒造り」の知識と技術が大切に継承されることを願って、正式登録を待ちたい。
<レーダーより>